「ありがとう」の先にあるもの - 井坪工務店|長野県飯田市の工務店

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井坪 寿晴
代表ブログ
POST:井坪 寿晴 2025.05.30

「ありがとう」の先にあるもの

皆さんこんにちは、井坪工務店の井坪です。

初夏の陽ざしが少しずつ強まり、草木の成長が早く感じられる季節になりましたね。
この時期になると、我が家の庭にも雑草がぐんぐん伸びてくるのですが、不思議といつもきれいなまま。
それは、毎朝のように早起きして草取りを続けてくれている、母のおかげです。

「歳を取ると早く目が覚めちゃうのよ」と笑う母ですが、朝のうちにかなりの範囲を丁寧に手入れしてくれていて、
私が出社する頃には、すっかり作業を終えて帰ってくる姿があります。

思えばその庭は、かつて父が大切にしていた場所。
その庭を、今も変わらず守り続ける母の姿に、最近ふと「すごいな」と、胸が熱くなるような思いを感じています。

 

さて皆様はいかがお過ごしでしょうか。

 

そんな母の姿を見ながら出社した先日の朝礼で、思わず胸が熱くなるスピーチがありました。

それは、入社30年を迎えたベテラン大工の丸山君からの「ありがとうスピーチ」でした。実は彼の入社時の指導係は私だったこともあり、彼が50歳を目前にした白髪まじりのオジサンになった今でも、どこかかわいい弟のような存在に感じています。

そんな丸山君の「ありがとう」は、先日亡くなられた友人のお父様に向けられたものでした。

その方は弊社のお施主様でもあり、なんと丸山君が初めて棟梁として携わった家のご主人でもあったのです。もともと友人のお父様ということもあってか、まだ若い彼を実の息子のように思ってくださり、働く人間としての心得を丁寧に教えてくださった方でした。

今の私の年齢になって思うのですが、20代の棟梁になりたての青年に、人生で一度の自宅建築を任せるというのは、並大抵のことではありません。しかし、その方は違いました。厳しい言葉の中にも深い期待を込めて、彼を成長させてくださったのです。

「とても厳しい方でしたが、働き方や職人としてのあり方を教えていただいた」

丸山君はそう振り返りました。建築中は若さゆえにがむしゃらで、その厳しさの裏にある深い愛情や期待を十分に理解できていなかったと、正直に語ってくれました。

しかし、運命的な瞬間が訪れます。

その方の葬儀の日、故人を偲ぶ思い出の写真の中に、丸山君が初棟梁として手がけた家の前で満面の笑みを浮かべるお父様の姿があったのです。それを見た息子さん(丸山君の友人)が、こう言われたそうです。

「親父…この時が一番いい顔してるな〜」

この話を聞いて、改めて思いました。

私たちは、人々の人生で最も輝かしい瞬間に寄り添う仕事をしているのです。新しい家族の出発点となる住まい、長年の夢が形になる瞬間、次の世代へと受け継がれていく大切な場所…。そうした特別な時間を共に創り上げることができるのが、私たち建築に携わる者の特権なのです。

これまでも、今も、そしてこれからも、大工とはそんな仕事です。

だからこそ、厳しさは当然で、その分の責任もある。丸山君が皆の前で静かに、しかし熱を込めて語るその姿に、30年という月日が育んだ職人としての深みと成長を感じました。

「もう50歳になろうとしているオジサンなのだから、成長もへったくれもないでしょうが…」と照れながら話す彼でしたが、人間としての成長に年齢の上限などありません。

亡くなられた方の想いは、確実に丸山君の中に息づいています。そして今度は彼が、次の世代にその想いを伝えていく番です。

厳しさの中にある愛情、責任の重さ、そして何より、人の人生に寄り添うことの尊さを。

胸が熱くなる「ありがとう」を聞かせてくれた丸山君に、そして天国でその成長を見守ってくださっているであろうあの方に、心からの感謝を込めて。

私たちは今日も、誰かの特別な瞬間を創るために、現場に向かいます。感謝!