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POST:井坪 寿晴 2026.06.05
小さく建てて、豊かに暮らす
皆さんこんにちは、社長の井坪です。
私の中の「いい家」の考え方を変えるきっかけになった、お客様の一言があります。
新築を検討されているお客様から、こう言われました。
「井坪さんの建築は好きだけど、うちは家族が少ないし、そんな大きい家はいらないんです」
もちろん、注文住宅ですから、どんなサイズでも対応できます。
そうお伝えしました。
でも——
あの言葉が、ずっと頭を離れませんでした
私が入社した30年前、井坪工務店は大型の和風住宅が得意な工務店でした。
二世帯、三世帯の同居も多く、広い玄関、立派な和室、長い廊下。
大工職人の技が随所に光る、見事な家。
この会社で職人ができることを、誇りに思いました。
社長になってからも、この分野はずっと得意分野でした。
受注も順調でした。
正直に言えば、私自身の中にも、
「玄関は広い方がいい」
「廊下はゆったり取るべきだ」
そういう感覚がありました。
でも、あの一言が引っかかっていた。
「好きだけど、うちには——」
そんな時、ある住宅雑誌の編集者から、新しいシステムの提案を受けました。
WEB上で部屋を360度見られるという、当時としては画期的なものでした。
ただ、私が気になったのは、システムではありませんでした。
画面に映っている、家そのものでした。
「このシステムは分かった。
でも、この家は何?」
そう聞くと、彼はこう答えました。
「これはイビケンさんが提案している、Binoという家です」
そのご縁で、イビケンの野原さん、西村さんにお会いすることになりました。
話した内容は、正直はっきりとは覚えていません。
でも、一つだけ、鮮明に残っている場面があります。
紹介の中で見せてもらった、何枚かの画像でした。
家の前に、家族と家財道具が並んでいる。
ある国では、家とは呼べないような住まいの前に、少ない家財と並ぶ家族。
ある国では、立派な家の前に、溢れるほどの家財道具を並べる家族。
そして最後に映った、おそらく北欧の家。
ほどよい大きさの家に、ちょうどいい家財道具。
家族が、穏やかに微笑んでいる。
その下に、一行。
「小さく建てて、豊かに暮らす」

——やられた、と思いました。
あの時から、私の中の「いい家」の定義が変わりました。
大きいから、いい家ではない。
小さいから、我慢する家でもない。
本当に必要なものを選び、質のいいものに囲まれ、愛着を持って長く暮らせる家。
それが、豊かな家なのだと。
あのお客様の言葉が、ようやく腑に落ちた瞬間でした。
「好きだけど、うちには——」
あの方は、私より先に気づいていたのかもしれません。
もちろん、井坪工務店は今でも、上質な手仕事を大切にしています。
大工職人の技、木の納まり、素材の質感、住むほどに愛着が深まる家。
それは、家が大きくても小さくても変わりません。
むしろ、小さな家ほど、一つひとつの質が大切になる。
空間の取り方、光の入り方、手で触れる場所の仕上げ。
そこに丁寧な仕事があるから、暮らしは豊かになるのだと思います。

もう十年以上前の話です。
でも、あの一枚の画像と、あの一言は、今も私の家づくりの真ん中にあります。
小さく建てて、豊かに暮らす。
これからの時代に、ますます大切にしたい考え方です。
感謝。